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-月刊EQD-

ブログ POSTS

-月刊EQD-

Yuichiro Hosokawa

<Vol.3>

タイムシャドウズ(サブハーモニックマルチディレイレゾネーター)

<モデル発表日>

2024年6月

<イントロダクション>

ブランドの創始者であるジェイミー・スティルマンにEQDペダルの開発秘話やオススメの使い方などを紹介してもらいながら、エフェクター研究家である細川雄一郎(CULT)の製品レビューを通して製品の魅力を紹介していく連載『Pedal of the Month -月刊EQD-』。第3回目に紹介するペダルは、気鋭のペダルブランドDeath By Audioとのコラボレーションによって誕生したタイムシャドウズ(サブハーモニックマルチディレイレゾネーター)です。

細川雄一郎(CULT)

世界的にその名を知られる国内屈指のエフェクター蒐集家であり、多種多様なエフェクターを取り扱うペダル・ショップCULTを主宰する細川雄一郎。エフェクターに無償の愛を注ぎ続ける彼にEQDのペダルはどのように映っているのでしょうか?

不穏な雰囲気を簡単に創れる
不気味サウンドジェネレーター


Death By AudioとEarthQuaker Devices、アメリカのオルタナブランドを代表する両雄がコラボレーションし、2020年に1,000台のみ発売された限定モデル、タイムシャドウズ。日本未発売であった上に、海外でも発売直後に完売したため、中古市場でもプレミア価格となっていましたが、ついに待望のレギュラーラインナップ化です。

まず初めに、このタイムシャドウズは“ペダル”ではなく、“エフェクター”であると断言できます。世の中のエフェクターが次々とペダルへと変わっていく昨今、タイムシャドウズという製品は外観の特徴を重視した“ペダル”という言葉ではなく、効果を生むものという本質的な内容を表わした“エフェクター”という言葉こそ、タイムシャドウズの特徴をとらえているように感じます。この文章を読んでいる多くの方は、ペダルではなくエフェクターが好きなのではないでしょうか。あ、僕は両方好きです。

タイムシャドウズはディレイの類です。しかし同時に、機能も音色も一般的なディレイとは程遠いです。大元の回路はディレイであり、弾いた音の反響を作ることができるペダルではあるのですが、タイムシャドウズに関しては弾いた音が忠実に返ってくることはありません。音程、音質、音量、すべてが異なるディレイ音が返ってくるのです。

その実態はディレイ、ピッチシフター、エンベロープフィルターを複合させたようなエフェクトで、例えるならば“不気味サウンドジェネレーター”とでも呼ぶべき、不穏な雰囲気を簡単に創れる空間系エフェクターです。さまざまなエフェクトの要素が複合されていながら、各エフェクトの細かなパラメータは固定されており、ユーザーが操作できるのはTime(ディレイタイム)、Span(フィードバック)、Filter(モードによって内容が変わります)という3つのコントロール、そして3種類のモードを切り替えるミニ・スイッチだけ。しかも各コントロールは、汎用的に働きません。Timeコントロールは明らかに限定的な範囲に固定されており、逆にFilterコントロールは圧倒的に広い範囲に設定されています。内部にトリマーなどはないかと、裏蓋を開けて確認しましたが、そこに見えるのは生産性に特化した冷徹なまでに現代的な基板と内部構造だけでした。

ミニ・スイッチで切り替えられる3つのモードは、EarthQuaker Devicesが考案した“EQD”モード、Death By Audioが考案した音色の“DBA”モード、そして今回の再販にあたって追加された“!¡ ”モードです。

EQDモードは、まるでアナログ・シンセのような音が出せるマルチ・ハーモニック・ディレイ。フィルターのレゾナンスの強さとディレイ音のアタックがなくなることも大きな特徴で、1970年代のSF映画のサントラがすぐにでも作れそうな音色です。DBAモードでは、超ショート・ディレイとロング・ディレイが交わった特殊なマルチタップ・ディレイ・サウンドが得られます。ディレイ音のピッチが微妙に変化しており、わずかなモジュレーションを生んでいることも音の印象に大きな影響を与えています。!¡モードは、ピッチが上がっていくディレイ、ピッチの下がっていくディレイ、対照的な2つの音が同時に鳴らされる狂気的なディレイです。自分が弾いた音と常に音程の変わっていく2種類のディレイ音が不穏なスケールを作り出し、弾いている側も聴いている側もとても不安な気持ちになります。

ここまではタイム・シャドウズの異常性ばかりをフィーチャーしてきましたが、最後に真っ当な機能も紹介しておきます。今回の再販バージョンには、6種類の音色プリセット機能、Time、Span、Filterのいずれかひとつを外部機器でコントロールできる、エクスプレッション・ペダル(CVコントロール)用の端子が追加されました。この唯一とも言えるマトモな機能を“焼石に水”と捉えるか、“鬼に金棒”と捉えるか……それはあなたの創造性次第です。

ジェイミーがタイムシャドウズを解説します。

ジェイミー・スティルマン(EQD代表)

ジェイミー・スティルマン(EQD代表)

 <ジェイミーからのコメント>

EQDの創立者であり、さまざまなバンドで演奏を楽しんでいるプレイヤーでもあるジェイミー・スティルマン。独創的なアイデアをペダルとして具現化させている彼に、タイムシャドウズの開発背景について語ってもらいました。

追加機能を搭載したことで
以前よりも100万倍素晴らしい製品に仕上がっています

タイムシャドウズの開発は、Reverb.comのプロジェクトとして始まりました。当時Reverb.comは“The Pedal Movie”の制作中で、その映画のプロモーション用にいくつかのエフェクター・ブランド同士でコラボレートした限定商品を出せないかと打診してきました。最近のブランドではDeath By Audio(以下、DBA)が好きだったので、一緒に何か作り出せるチャンスだと感じました。DBAにはEQDと同じバイブスを感じていましたし、一緒に働くには最高のブランドだと思ったんです。時期としてはちょうどパンデミックによるロックダウンが始まった2020年3月頃、仕事をする場所を職場から自宅へと移したタイミングでした。

タイムシャドウズは2020年11月に1,000台限定で発売され、たったの8時間で完売。これには大変驚きました。その後、中古市場での価格が高騰したのを見て、より購入しやすい価格でレギュラーラインに追加したほうが良いのでは、と思うようになりました。

ラインナップに加わる新たなタイムシャドウズには、いくつかの仕様を追加し、より実践向けのエフェクターに仕上げました。特筆するべきはトグル・スイッチのセンター・ポジションに追加した3つ目の!¡モードです。

このモードは300msディレイでリピートを重ねるごとにピッチが上がったり、下がったりを繰り返します。この効果ですが、実は裏モードとしてオリジナルのタイムシャドウズにも搭載されてます。トグル・スイッチを2つのモードの間にうまく設定しないとアクセスできないため、どれだけの人が気づいたかはわかりません。では、なぜそのような仕様を搭載することになったかをお話しすると……偶然の事故が原因なんです。実は、僕が作業途中段階の設定データをEEPROM(※設定情報など電源を切っても保持すべきデータの記憶に用いられるコンピュータ・メモリの一種)に残していたことを忘れており、それに気が付かないまま製品が発売されてしまったのです。この事実を思い出したのは、オリジナルのタイムシャドウズがリリースされたあとのことでした。今回は、開発途中だったそのプログラムを完成させて、トグル・スイッチで簡単にアクセスできるようにしています。加えて、エクスプレッション・ペダルへの対応や、簡単にリコールできる6チャンネルプリセットも搭載しています。この新たなタイムシャドウズは、さまざまな追加機能を登載し、以前のペダルよりも100万倍素晴らしい出来に仕上がっています。

どんな機材とも相性が良いのですが、エンベロープの特性からシグナルチェーンの最初のほうに置くのが効果的です。くり返しになりますが、どの場所にセットしても活躍するエフェクターです。3モードのすべてで独創的な効果が得られるので、飛び道具的な使い方をしたいのであれば、これ単体だけで十分でしょう。

タイムシャドウズの名付け親は、DBAのOllie(オリバー・アッカーマン:DBA創設者、ロック・ミュージシャン)です。彼は天才ですね。このモデルを開発している時、僕が彼に“何かいい名前を思いついた?”と尋ねたら、10分も経たない間に20ものカッコいいモデル名が返信されてきました。どの名前も素晴らしかったんですが、このエフェクターには“タイムシャドウズ”というネーミングがピッタリだと思います。

 

Jamie’s Favorite Settings(EQD)

<MODE:EQD>
Filter - Max
Time - Min
Span - Min

ピッキングのダイナミクスをうまくコントロールすると、ギターをドゥームな感じで捻じ曲げらることができます。まるでチェロのようなサウンドで、フレーズによっては“逆再生”させたようにも聴こえるはずです。あと、このセッティングでは弾いたノートを1秒以上伸ばしてミュートする、という奏法がオススメ。ゆっくりとスタッカートするような演奏でも効果を発揮すると思います。

<MODE:!¡>
Filter - Noon
Time - Noon
Span - Noon

この設定では、スタッカートなスタイルでの演奏がオススメ。クロマチック・スケールでの演奏が適してると思います。とても音楽的なのですが、それと同時に音がいろんな方向にランダムに飛ぶ感じも出ます。音程感のないエフェクトになりがちなモードですが、私はこのモードでギターを弾くたびにさまざまな使い道を見つけています。

<MODE:DBA>
Filter – Expression control
Time - 9時
Span - 1時

エクスプレッション・ペダルと組み合わせた場合の最高の設定です! この音の説明は言葉で表現するのが難しいのですが……爆発寸前のフランジャーをかけたリバーブ・タンクのようなサウンドです。もしエクスプレッション・ペダルを持ってなければ、Filterを1時の方向に設定すると、ガラスの結晶の塊のようなディレイがリバーブ・タンクを突き抜けていくような効果を得ることができます。このモードは、少しノブを動かすだけで表情豊かな音に変化させることができますよ!

Ollie’s Favorite Settings(DBA)

<MODE:EQD>
Filter - 9時
Time - 9:15
Span - All the way up

このセッティングでは、優しく弾くと動きのある水中の雰囲気のような音を出すことができて、思いっきり強く弾くと不協和音を爆発させたような音になるんだ。

<MODE:!¡>
Filter - 9時
Time - All the way down
Span - 10時

このセッティングは、俺が何を弾いても聞いた人の印象に残る最高な下地を作ってくれる。まるで、ずーっと遠くのほうにある神秘的な井戸の中から誰かが一緒に演奏してくれているみたいなんだ。ファズとの相性も最高だよ。

<MODE:DBA>
Filter - All the way up
Time - 9時
Span - 10時

結晶の塊みたいなリバーブ・サウンド。自然とも不自然とも言えない音の中からギター・サウンドが飛び出してくるよ。ギターをこのセッティングでアンプをプッシュしてフィードバックを与えれば、それはもうこの世の物とは思えないサウンドだよ。

EQDのジェイミーとDBAのオリバーがサシでTime Shadowsを語ります!


細川雄一郎(CULT)

大手楽器店にて約10年間、エフェクターの専任として勤務し、多くの著名なプロミュージシャンから信頼を集め、2016年に独立。並行して担当していた専門誌での連載コラム、各種ムック本などでの執筆活動を続けながら、ギターテックとしても活動。エフェクターのコレクターとしても世界に名を知られており、自身のエフェクター専門ウェブショップ“CULT”を2018年にオープンし、2020年には自身のコレクションに関する書籍『CULT of Pedals』を執筆、リットーミュージックより出版された。ペダル以外にハンバーガーをこよなく愛し、ハンバーガーに関する書籍などにも登場することがある。

 

 尾藤雅哉

2005年にリットーミュージック『ギター・マガジン』編集部でキャリアをスタートし、2014年からは『ギター・マガジン』編集長、2019年には同誌プロデューサーを歴任。担当編集書籍として『アベフトシ / THEE MICHELLE GUN ELEPHANT』、『CULT of Pedal』など。2021年に独立し、真島昌利『ROCK&ROLL RECORDER』、チバユウスケ『EVE OF DESTRUCTION』、古市コータロー『Heroes In My Life』の企画・編集を手がける。2024年には、コンテンツ・カンパニー“BITTERS.inc”を設立。

 

西槇太一 

1980年東京生まれ。8年間ほどミュージシャンのマネージメント経験を経て、フォトグラファーに転身。スタジアムからライブハウスまで、さまざまなアーティストのライブで巻き起こる熱狂の瞬間を記録した写真の数々は、多方面から大きな支持を集めている。またミュージシャンの宣材写真やCDを始めとする音楽作品のジャケット、さらには楽器メーカーの製品写真の撮影なども手がけるなど、音楽シーンを中心に精力的に活動中。また自身のライフワークとして撮り続けている“家族写真”にスポットを当てた個展も不定期に開催している。