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-月刊EQD-

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Yuichiro Hosokawa

<Vol.1>

スペーシアルデリバリー(エンベローブフィルター/サンプル&ホールド)

<モデル発表日>

スペーシアルデリバリー:2016年 1月

スペーシアルデリバリー(V3):2024年4月4日

<イントロダクション>

ブランドの創始者であるジェイミー・スティルマンにEQDペダルの開発秘話やオススメの使い方などを紹介してもらいながら、エフェクター研究家である細川雄一郎(CULT)の製品レビューを通して製品の魅力を紹介していく連載『Pedal of the Month -月刊EQD-』。記念すべき第1回目は、機能をアップデートして登場したスペーシアルデリバリー(エンベローブフィルター/サンプル&ホールド)です。

細川雄一郎(CULT)

世界的にその名を知られる国内屈指のエフェクター蒐集家であり、多種多様なエフェクターを取り扱うペダル・ショップCULTを主宰する細川雄一郎。エフェクターに無償の愛を注ぎ続ける彼にEQDのペダルはどのように映っているのでしょうか?

“ギタリストが求めるエンベローブフィルター”のお手本のような存在”

EarthQuaker Devicesの創設者であり、世界で最も成功したペダル・ギークのひとりでもあるジェイミー・スティルマン。さまざまなビンテージ・エフェクターを所有するジェイミーですが、彼が自身のコレクションの中で特に気に入っているビンテージ・ペダルのひとつがマエストロ FSH-1 フィルター・サンプル/ホールド(以下FSH-1)です。そして今回紹介するスペーシアルデリバリーは、ジェイミーがFSH-1からインスピレーションを受けて完成させたエンベローブフィルター/オートワウです。

開発のアイデアの源となったマエストロFSH-1は、シンセサイザー黄金期である1974年に、多くの名機を生んだエンジニアであるトム・オーバーハイムによって設計されたエンベローブフィルター/オートワウです。非常にクリエイティブなペダルとして、ビンテージ・エフェクター史の中でも特別視される名機中の名機ですが、スペーシアルデリバリーはFSH-1の回路を直接的に取り込んだものではありません。僕の印象だとスペーシアルデリバリーは、優れたビンテージ機材が持つ魅力的なサウンドをベースに新たに生み出された“非常に楽器的なペダル”だと思います。

スペーシアルデリバリーは、いわば“ギタリストが求めるエンベローブフィルター”のお手本のような存在と言えるでしょう。例えば、Rangeコントロールをギターの帯域に合わせれば(6弦ギターなら11時〜1時前後の方向)、他のコントロールがどうなっていても聴き覚えのあるファンキーなサウンドを生み出します。そこにフィルターのエグみやクセを足したければResonanceコントロールを上げ、そうでなければ下げる───たったこれだけのステップでほとんどのギタリストが満足してしまうであろう魅力溢れるサウンドを生み出してしまいます。

また、Filterコントロールによってハイパス(HP)、バンドパス(BP)、ローパス(LP)の3種類のフィルターが無段階に変えられることも特筆すべきポイントですね。この機能はとても珍しく、非常に使い勝手が良いんです。例えば、出ている音の質感は良いんだけど欲しい帯域がフィルターによって削られ過ぎてしまっている場合、フィルター・コントロールを少しだけ動かすだけで問題が簡単に解消することでしょう。

中央のModeスイッチでは、フィルターの開き方を選択することができます。簡単にいうと、「ワ→ウ(Dnモード)」と「ウ→ワ(Upモード)」を選べるスイッチですね。加えてスイッチ中央のSHモードでは、FSH-1にも採用されていたサンプル/ホールド・エフェクトを再現することができます。このサンプル/ホールドとは、フィルターの開閉具合がランダムに変化するエフェクトで、これがジェイミーの言うところの「熱を持ったパソコンがブツブツ言ってるサウンド」を指すのでしょう。僕には“ピコポコ”というかわいい音にも聴こえます。このFSH-1由来の不思議な音がしっかりと再現されていながら、エンベローブフィルターとしてもしっかり優秀な効果を発揮している点がスペーシアルデリバリーの最大の特徴ですね。

これらの機能に加えて、今回アップデートされたV3では6つのセッティングのプリセット機能、エクスプレッション・ペダル(別売)で任意のパラメーターをコントロールする機能が追加されました。エクスプレッションペダルをRangeにアサインすれば、エレクトロニック・ミュージックで聴けるような、強力なワウ・フィルターを足下で再現することができます。

Jake CloudchairさんのSpatial Deliveryのデモ

 さて、今回のスペーシアルデリバリーですが、基本的なプレイヤーのニーズとクリエイティビティの両方を高水準で満たす、いかにもEarthQuaker Devicesらしい1台でした。 この世には、すぐに好きな音に辿り着ける楽器と、いくらいじっても好みの音が出ない楽器がありますが、スペーシアルデリバリーは明らかに前者ですね。後者のパターンだとレビューに困ってしまうので、筆者としても助かります。

そもそもエンベローブフィルターというジャンルのペダルには操作が複雑なものが多く、そうでないものは効果が過度に強いものが多い印象があります。その中にあってスペーシアルデリバリーは、必要にして十分な機能が入っていながら感覚的に操作ができ、それでいて音楽的なエグみもある。あなたがエンベローブフィルターを手に入れようと考えた時、このスペーシアルデリバリーは非常に合理的な選択肢になると思います。

 

<ジェイミーからのコメント>

ジェイミー・スティルマン(EQD代表)

ジェイミー・スティルマン(EQD代表)

EQDの創立者であり、さまざまなバンドで演奏を楽しんでいるプレイヤーでもあるジェイミー・スティルマン。さまざまなアイデアをエフェクターとして具現化させている彼に、スペーシアル・デリバリーの開発背景について語ってもらいました。

サウンド・アルゴリズムを変えることなく
より使いやすいモデルに仕上げました。

私がスペーシアルデリバリー(エンベローブフィルター/サンプル&ホールド)を開発した際、元になったのがマエストロのFSH-1(フィルター・サンプル&ホールド)でした。このFSH-1は、“熱を持ったパソコンがブツブツ言っている”ような音がするビンテージ・ペダルなんですが、ここで皆さんに伝えておきたいのは、スペーシアルデリバリーはFSH-1のクローンではないということです。

私が作りたかったのはFSH-1のような効果を持ちつつ、より感情的な動きと多くのサウンド・オプションを備えたペダルでした。なので、ひとつのノブ・コントロールでハイパスからバンドパス、そしてローパス・フィルターをクロスフェードさせることを可能としたスペーシアルデリバリーの仕様にはとても満足しています。 加えてスペーシアルデリバリーは、レゾナンスを増幅することもでき、強くピッキングすればオーバードライブしたかのようなザラついたサウンドを生み出すことも可能です。

2024年4月にリリースしたアップデート版のV3は、6つのサウンドを保存できるプリセットとエクスプレッション・ジャックを追加搭載しました。サウンド自体は何も変えたくなかったので、サウンド・アルゴリズムは初期のスペーシアルデリバリーと同じままで、より使いやすいモデルに仕上げました。モードの切り替えもとても簡単なんですよ。

スペーシアルデリバリーはどの楽器にもよく合うと思いますが、歪み系エフェクターとの相性は抜群だと思います。ギターからの接続順は、フィルターの反応が良くなるので一番最初に置くことをオススメします。その次に歪み系ペダルをつないで使ってみてください。

私が長年使っている自分専用のスペーシアルデリバリーは、サンプル&ホールド・モードとエンベロープ・アップ・モードを演奏中に切り替えられるように、ふたつめのフットスイッチともう1組ののコントロールを搭載しています。今となっては、私がライブをやる時にこの仕様は欠かせません。

ちなみにスペーシアルデリバリーという名前は、“Special Delivery”という言葉を私がエンペロープフィルター的な感じにいじって付けました。ちょっとバカっぽいですが、ぴったりのネーミングだと思います。

Jamie’s Settings

<1>

Mode:エンベロープ Up

Filter:3時(バンドパスとローパスの間くらい)

Resonance:11時

Range:ハムバッカーだと11時、シングルコイルでは1時あたり

<2>

Mode:Sample &Hold

Filter:ローパスに振り切り

Resonance:1~2時。 キンキンしだして少し歪みかけるあたり。

Range:曲のテンポに合わせて調整。 自分ひとりで弾いているときは10~1時の間

ジェイミー自身がSpatial Deliveryの使い方を紹介


細川雄一郎(CULT)

大手楽器店にて約10年間、エフェクターの専任として勤務し、多くの著名なプロミュージシャンから信頼を集め、2016年に独立。並行して担当していた専門誌での連載コラム、各種ムック本などでの執筆活動を続けながら、ギターテックとしても活動。エフェクターのコレクターとしても世界に名を知られており、自身のエフェクター専門ウェブショップ“CULT”を2018年にオープンし、2020年には自身のコレクションに関する書籍『CULT of Pedals』を執筆、リットーミュージックより出版された。ペダル以外にハンバーガーをこよなく愛し、ハンバーガーに関する書籍などにも登場することがある。

 

 尾藤雅哉

2005年にリットーミュージック『ギター・マガジン』編集部でキャリアをスタートし、2014年からは『ギター・マガジン』編集長、2019年には同誌プロデューサーを歴任。担当編集書籍として『アベフトシ / THEE MICHELLE GUN ELEPHANT』、『CULT of Pedal』など。2021年に独立し、真島昌利『ROCK&ROLL RECORDER』、チバユウスケ『EVE OF DESTRUCTION』、古市コータロー『Heroes In My Life』の企画・編集を手がける。2024年には、コンテンツ・カンパニー“BITTERS.inc”を設立。

 

西槇太一 

1980年東京生まれ。8年間ほどミュージシャンのマネージメント経験を経て、フォトグラファーに転身。スタジアムからライブハウスまで、さまざまなアーティストのライブで巻き起こる熱狂の瞬間を記録した写真の数々は、多方面から大きな支持を集めている。またミュージシャンの宣材写真やCDを始めとする音楽作品のジャケット、さらには楽器メーカーの製品写真の撮影なども手がけるなど、音楽シーンを中心に精力的に活動中。また自身のライフワークとして撮り続けている“家族写真”にスポットを当てた個展も不定期に開催している。