村田善行(フーチーズ)
村田善行
僕がEQDと出会ったのは2016年の秋頃だったと思う。当時、アメリカに住むEchoplex Repairの達人Pete(ご存知Mr.Jimmy桜井さんやジョーボナマサのEchoplexも修理している人)からEchoplexを購入。Pete曰く「Echoplexは繊細な楽器だから、できれば手持ちで運びたい。俺の友達のTakaってヤツが9月に日本に行くらしいから、渡して持って行ってもらうわ」と。いやいや、そんな知らない人に手持ちでEchoplex運ばせるなんて申し訳ない…. 郵送で送ってよ、と言ってもPeteは話を聞かず。結局、2016年10月の楽器フェアに来場するという、その「Takaさん」がEchoplexを手持ちでアメリカから運んでくれることになった。ご存知の通り、Echoplexは結構な荷物だ。重いし、角ばっている… さらに壊れやすい。もし自分が東京からLAに運んでくれ、と頼まれたら即座に「イヤな顔」になるだろう。マジで。
Takaという人に申し訳ないなー、と思いつつ楽器フェア当日、クルーズのブースにいるとTakaさんがEchoplexを持って登場。恐縮しながら挨拶した。Takaさんは「いやー、Peteめっちゃいいやつなんでーよろしくー!」と言っている。いやどっちかと言うと「いいヤツ」は友達に頼まれて、わざわざ日本までこれ(EP-2)を運んでくれたアンタの方だろうよ…。すると、一緒にいた男女がニコニコしている。話を聞くと彼女たちがEQDの社長/副社長だという。その時は軽く挨拶をし、忙しそうに彼らは当時のEQD輸入元のブースへと向かっていった。私は仕事そっちのけでEchoplexをチェックして「良いもの買ったなー」と思っていた。状態の良いEP-2を入手して、メンテナンスしてくれただけでなく、さらにハンドキャリーで日本に運んでくれるなんて…Pete & Takaに感謝しかない。
楽器フェアは3日間行われる。翌日の朝、EQDチームは再度我々のブースを訪れた。「昨日ちょっと気になるものをヨシさんのブースで見たんですよー」とTakaさんがチェックしたのはその時発表した野村義男さんのアイディアをまとめた3in1のエフェクトだった。TakaさんとJamieは割としっかりそのペダルをチェックしてくれた。
Jamieは動作の感触が面白いと言っていた。Takaさんは「なるほど!面白いですね!俺これ買います。予約しておいてください!」そう言ってまたブースへ向かって行った。僕はその「発売されたら買います」を社交辞令だと思って(よくそう言って買わない人がいるので)そのペダルの注残リストには名前を入れなかった。ところが、ペダルが発売になってすぐにTakaさんから「村田さん、僕のは?」と言われて焦ったものでした。この業界にしては珍しく社交辞令じゃないんだなー、と。
それからしばらくたって、EQDが日本での販売に関して、新しいパートナーを探しているという事を中尾憲太郎くんから聞いた。その頃、中尾氏はEQDチームと意気投合し、EQDのアンバサダー的な存在になり始めていた。氏は実は僕より断然、新しいペダルに詳しく、また実際に所有しているペダル数も並みじゃない「ペダル野郎」だ。そんな彼がそこまでEQDを気にいると言うことは「音だけじゃない何か」を感じたんだろうな、と思った。
で、日本での展開を考えた際に、すでにEQDはかなりのラインナップがあり、アメリカでは非常にメジャーな存在なので、しっかりとした輸入部門がないと本国と同じ様な雰囲気は出せないんじゃないか?と話した記憶がある。
実際、数年前からNAMM SHOWでEQDのブースをチェックしていて、その自由な雰囲気と、そのブースに大勢のミュージシャンが訪れ大賑わいしている様子に、日本での認知度とアメリカでの人気にギャップを感じていたからだ。
ところで中尾くん、何故そんなにEQDにご熱心になった の?と聞くと氏は「マジで音が好みなんだよね。それにEQDの奴らはとにかく皆んな、良いヤツだからさ」と言っていた。また出てきたぞ「良いヤツ」というフレーズ。
確かに数回しか話したことがない僕だって、JulieもJamieも物腰柔らかで良いヤツだということは即座に理解していた。そう、良いヤツなんですよ。EQDの関係者は全員。でも、なんで良いヤツらばかりなんだろうか?と考えてみると… それはまず、JulieとJamieが異常に良いヤツらだからだと思います。
このEQDブログを読んでいる皆さんであればご存知だと思いますが、EQDはなんと言うか… バンドマンが始めたエフェクターブランド、という感じなんですよね。パンクやメタル、サイケデリックなロックを通過した奴ら(Jamie)が、同じノリでインディペンデントなペダルブランドを始めて。そしたら音でウケて。デザインも個性があってコレクションしたくなる。アメリカでは徐々に知名度が上がり、会社は大きくなってきて、でも最初のD.I.Y精神は忘れていない。真面目に、ふざけながら、製品のクオリティーをキープしている。そうやってスタッフを大勢抱えて、ローカルの雇用もしっかりフォローしている。
だいたい会社の社長が「友達を雇って、ちゃんと給料と福利厚生を与えて面倒を見る。それなら仕事(製品の品質管理も含めて)の隅から隅まで全部管理できるから」って中々言えないセリフだと思います。そんなこと言うのは本当に面倒見が良い「格のある不良」か「パンクス」くらいなもんでしょう。
さらにEQD主催のライブイベントを(アメリカだけでなく日本でも)やってる。EarthQuaker Dayという地元アクロンのイベントでは地域を巻き込んだパーティーになっていて、楽器を弾く人/弾かない人、誰でも参加できて楽しめる。そして、イベントをきっかけに楽器を始めることだってできる。こんなアクティヴなエファクターブランドって、他にありますかね?
つまり、EQDのスタッフはペダルを作ることが「地元での生活そのもの」で、Jamieにしても社長としての「気負いの」様なものが、全く感じられないんですね。「面白かったらやる、面白くなかったらやらない」位な感覚で仕事してるというか。もちろん、自分がトップにたって大勢の友人達と会社を運営するなんて、楽しい反面、お金の問題から友人関係まで日々のストレスも半端じゃないと思います。でも根っこがバンドマンである彼は、そういう問題を乗り越えるパワーを持っているのでしょう。もちろん、EQDを始める前はバンドのブッキングを行なっていたと言う公私ともにパートナーであるJulieの力も大きいと思います。彼女はすごくパワフルで優しいんですよね。もしかしたら、EQDがうまく 行ってるのは、彼女の力…?根拠は全くありませんが。
加えて、EQDのスタッフは遊びを仕事にできるのだと思います。違うな、楽しみながら仕事をできる、と言ったほうが正しいかもしれません。EQDのYouTubeチャンネルを覗くとビックリしますが、コンテンツの量が半端じゃない。しかも音楽のジャンルはボーダーレス。エフェクターの使い方/レビュー動画、とかじゃないんですね。「どうこれ?ヤバくない?」「これさー、この間使ってたらこんな音が出たんだよね」「この音使えるのかな?」とか…非常に日常的な内容から、かなり専門的な解説、ミュージシャンのRigの紹介etc… これ、全部自社内で制作しているらしいです。カメラマンも録音も編集も自社内で。専任スタッフがいるのか?と言うくらい、かなり質の高いコンテンツ。でもEQDに言わせれば「社内のできるヤツが、できる事をやってるだけだよ。でも皆んながEQDのプライドを持ってやっている」と。加えて、動画のサムネイル一覧を見ればわかると思うんですが、動画の出演人物のほとんどがちゃんと「アーティスト」なんですよね。ミュージシャンも裏方のエンジニアも含めて。これ、意味が伝わりますかね?「製品レビュワー」とか、そういう人じゃなくて「アーティスト」なんです。ここ、非常にEQDの「らしさを」感じるポイントです。エフェクターブランドの動画にDrive Like Jehuが!?なかなか、あり得ないことでしょう。
ちなみに、(残念ながらアーティスト枠ではありませんが) 私もEQDコンテンツの”Show Us Your Junk!”というコーナーに誘われて、集めている機材(ファズ)の説明や、働いてる店の撮影を行いました。
その時も「うちの店(フーチーズ )EQD置いてないし、僕の機材紹介の中にEQD一つも出てこないよ?大丈夫?Plumes とかDispatch Masterとか、それっぽく置いておかなくて良いの?」というと「そんな必要ないよ」と。「そう言う動画じゃないから」と。
いやいや、でもあなた達5人(Jamie, Julie, Fej, Chris,とTaka)でここまで来て、動画撮って編集して。そのコストを自社の宣伝にもならない動画に使うって、一体どう言うこと?しかもうちの店の紹介までして、でも店ではEQD扱っていないんだよ?そのコストかける意味なくない?と聞くと「いや、でもこの企画そう言うものだから。面白いからやるんだよね。だから君にもギャラはないけど笑。終わったらご飯食べて呑もうよ」だって。呆れたもんでしょ?彼らに何のメリットがあるのか?
でも、そこに「EQDという『チーム』が存在する意味」があるのかも、と思いました。ですから、うちの店がEQDを販売しない理由は色々あるのですが(ヤマハさんは小口の店舗と直接やり取りできないんですよねー、とか笑)当店のお客様にもEQD愛用者は沢山いますし、私もペダルボードの相談をされた際に「その場合はSwiss Thingsを入れましょう。他のお店で買ってきてください」とか「それならAfterneathですね。どこかで買ってきてください」という形を取っています。それで、全然問題ないと思っています。
今回もTakaさんに「EQDのBlogでなんか書いてください」と誘われて、この文章を書いています。え?何書けば良いんですか?と聞いたら「なんでも良いっす。ヨシさんが思うウチらの事を書いてください」とのこと。なるほどそれなら… と引き受けました。
で、どうやってEQDと知り合ったんだっけ?とか、そう言ったことを振り返りながら書き始めたらこの有様。そうして改めて思ったのは、やっぱり「僕が知ってるEQDの関係者は全員いいヤツらだった」という事です。
もちろん、良い奴らだから「良いペダル」が作れる訳じゃないし「良い音」が出る訳じゃない。でもそれは、今さらここで僕が書くまでもなく、皆さんご存知の通りです。だから音のことは書きません。EQDの場合、そんな説明よりもYouTubeで実機の音をチェックした方が、100倍早く納得できると思います!
このブログ上で紹介したペダル達
村田善行 自社ブランドCrews Maniac Soundを展開するGuitar Shop Hoochie'sに勤務。Hoochie'sのレビュー、デモはもちろん、デジマートのビデオや楽器関係の雑誌ではビンテージの機材に限らず、現代の機材にも精通する的確な目線とセンスを見せます。
EQDが好きな外国人の友達の多くは、みんな口を揃えて「Black Ashがファイバリットだ!」と言います。なんだったら「オマエもそう思うだろ!?」というような目で訴えてきます。しかし、ここ日本においてBlack Ashというモデルはさほど知られていません。いや、EQDの伝説のラインナップとして密かに知られている、と言い換えることもできます。