ギターのセットアップの基本と手ほどき
takahiro tozawa
自分でもどうしたら良いか分からないくらい家で時間を持て余す事が多い中、ここ最近弾いてなかったギターを手にする事も。昔は大好きで熱心に弾いていたのにその熱も失って沢山の事柄が変わっていく今日この頃ですが、昔愛していたギターの見方は変わらなくても良いと思います。もしそのさえた熱を感じていたらそれを取り戻す良い機会ではないでしょうか?そのギターを手に取る度にいつも貴方にインスピレーションを与えてくれる様に、楽器の面倒を見る義務が有りますよね。
普段なら楽器の調整はプロに任せた方が良いと言いますが、このご時世リペアショップの利用ができない人も多いと思います。お店が閉まっていたり、安全確保の為お客さんの受け入れ人数に限りが有ったりと。それなら家を出れない時にはどうするか?楽器の修理は何年もの訓練と経験を必要とします。このブログを見ても1日でプロの修理屋さんになる事は無理ですが、実際の調整が必要な時の理由等の理解が深まればと思っています。
どんな商売と一緒で、楽器の修理と調整にはある一定の投資が必要で、経験、技術、そしてその仕事に対しての正しい道具の使い方の組み合わせが安全で正確な結果を生み出します。これらの道具は高額な物も沢山あり、たった一回しか必要ない物にそれなりの投資をするには勿体無いと思います。修理や調整に興味が有って自分自身でやってみたいと思う方々には、すでに貴方の家の道具箱に有る物も含まれていると思いますが、以下の物を勧めます。
有ると便利なもの
プラスとマイナスのドライバーのセットや精密ドライバーセット
ストリングワインダー
ESPマルチスパナ
ストレートエッジ
隙間ゲージ
弦高チェック専用の物差し
チューナー(スマホのチューナーアプリでも可)
アレンレンチ(調整しているギターによりインチかミリ規格)
ソケットレンチ(調整しているギターによりインチかミリ規格)
ギブソントラスロッドレンチ(調整しているギターがギブソンなら)
ビンテージスタイルのフェンダーのトラスロッドレンチ(ビンテージスタイルのフェンダーのネックのボディーで調整が必要な場合)
ギターポリッシュ
レモンオイル
鉛筆と鉛筆削り
クリーニングクロス(古いTシャツでも代用可能)
スチールウール(1000番)
ネックレスト
ヨガマット(タオルやカーペット生地の様な物でも代用可能)
まず最初にしっかりとした照明のある場所を見つけましょう。もしコーヒーテーブルや台所のテーブルなんかを一時的に使えるならそれも良いでしょう。その上をヨガマットなどでカバーしてテーブルや調整する楽器の保護をします。作業に必要な道具達は横に分けて置く様にしましょう。楽器をまたいで道具を取った時に誤って道具を落として楽器を傷つける事を防ぐためです。もしネックレストを持ってなければ、小さいクッションやタオルを丸めた物をナットの下に置いてください。それではお好みでコヒーや紅茶を入れ、音楽をかけてリラックスして取り組みましょう。
基本的な調整の前にする事
1 調整する楽器を実際に試す:実際にアンプを使って試奏して、音や弾き心地を覚えておく様にしましょう。もし何か気に入らなかったり、おかしな所を見つけたらそこは覚えておいてください。
2 ネックとトラスロッドの状態を見る:この部分は一番重要な部分になりうる所で、ギターの調整時にネックにダメージを与えてしまう可能性も有りますので十分な注意を払ってください。もし自信の無い人はトラスロッドの仕組みや調整の仕方を調べましょう。ネックの状態の見方は数種類有ります。多くの人はネックだけを見れば正確な状態が分かると思っていますが私はそれは違うと思っています。ネックを見る事は良い事ですが、どちらかというと大まかに素早く調べる方法で、正確な方法ではないです。ネックの状態を見るにはまずギターをネックのヘッド側から見て、巻き弦側(6弦側)のフレットのエッジをネックジョイントに向かって見てください。そこからギターをくるっと回して今度はプレーン弦(1弦側)のフレットのエッジをネックジョイントに向かって見てください。そこで”順反り”や”逆反り”、ネックの起き(だいたいはネックポケットの部分です)や古いギターではフレットのデコボコが見えると思います。私は普段スレートエッジや隙間ゲージを使います(でもストレートエッジはそんなに安くなくサイズも色々有り、正しい使い方の練習も必要になります)。このブログを書いた意味も含めて、ここは簡単にできる方法で(しかもタダ)進めたいと思います。自分でスレートエッジを再現してみます。ギターを実際に弾く様な形にして右手の親指ネックジョイントの近く(通常は15、17か19フレット辺りです)の巻き弦側の6弦のレットを押さえて、左手の人差し指で1フレットを押さえてみてください。それがスレートエッジの役割を果たしています。そこから右手の人差し指で5から7フレット(指が伸びる所まで)を押して、弦とフレットの間にある程度の隙間が有る事を確認してください。ちょうど良い目印として弦とフレットの間に名刺を一枚差し込んでみてくだい。名刺が丁度隙間に入る位でしたら、通常通に調整されてると見て良いと思いす。もし隙間が大きすぎるなら、ネックに対する弦の力が掛かり過ぎてるのでトラスロッドを締める必要が有ります。その逆で隙間が無さすぎると弦とフレットが摩擦して、弦のビビりの原因となりますのでそれは避けたいですよね。もしこれの場合はトラスロッドを少し緩めなければいけません。ここで重要なのが、トラストッドを締める場合は必ず一旦緩めてから締め直し、最新の注意を払ってください。急な力を与えたり、無理に回したりしないでください。もしトラスロッドが硬くこれ以上回らないとなったらそこでストップしてください!トラスロッドをキツく締めすぎると内部で折れ、それでは手遅れになってしまいます。もしこの様な状態でしたら、単純に道具を置いてそこで作業を止めましょう。ここから先はもっと深い経験が必要でトラスロッドを折る事だけは避けたいのです。これは本当です。トラスロッドを回す道具はいくつか出ていますが、もしそのギターを新品で購入しているなら、そのギターに使用可能なレンチが付いてきている場合もあります。トラスロッドのサイズと合わないレンチは絶対に使わないでください。最悪の結果が待っています。
3 ブジッリやサドルの高さの調整:ネックの調整が済んだ後はブリッジを調整し、弦高をチェックできる定規を使いながら弦高を調整します。私が弦高のチェックの際の基本にしている部分は1フレットを抑えた状態で各弦のサドルを調整し、12フレット部分で.060’(1.524ミリ)になる様にします。これで各弦が指板のRに自動的に合う様に調整でき、指板のRを測る定規等の必要が無くなります。ネックの状態とブリッジやサドルの高さの調整を正しく行ったら、ギターを試して弦のビビりがないか見てみます。もしビビりが無ければそれで完了。ビビリが有る様でしたら再度の調整が必要になります。
4 ナットを調べる:通常はここの段階でナットの高さの調整や必要に応じて弦の入る溝を削る作業を行います。しかしこの作業をうまく行うには沢山の経験と技術が必要で、この作業に必要な工具も安くありません。各弦のゲージに合わせたファイルが必要で、沢山の練習も必要です。溝の深さを測るのは良い事ですが、これは手軽にできるギターのセットアップを紹介したいブログですので、ここではナットの状態は大丈夫と仮定して進めます。ナット部の高さを測るのは、ネックの反りの見方と似ています。左手の人差し指で1フレット押して、右手の人差し指で3フレットをタップしてみます。そこで弦とフレットの溝が大きければフレットが高すぎるという意味で、タップした時の高さが少なかったり、全く無い状態の時はナットの溝が深すぎるという事になり、オープンノートを弾いた時のバズの原因になります。ナットの状態が最適でない場合は高い技術が要求されます。近い将来この事とトラスロッドの調整のブログを書こうと思っていますが、今回はスキップします。
5 電気系統を調べる:ギターにケーブルが刺さっている時は、電気系統を調べるには良いタイミングです。ケーブルがギターに刺さっている部分のジャックを軽く動かして音が切れないか見てみます。ボリュームとトーンを動かしてノイズが出ないかも確認します。ピックアップセレクターを動かした際もノイズや音の途切れが無いか確認します。もしノイズを発生しなければここは大丈夫です。もしそうでなければ、問題箇所を覚えておいて、弦を取り除いた時に各問題をさらに見ていきましょう。
6 弦を取り除きピックアップをマスキング、フレットを磨いてフレットボードにオイルを塗る:次は古い弦を取り除き、ピックアップやポールピースをマスキングテープでカバーします。これをする事によってスチールウールでフレットを磨いた際に出るくずからピックアップを守れます。もし1枚目の写真の様なフレットガードが無くても慌てないでください。2枚目の写真の様なマスキングテープで代用できます。これでスチールウールを使用した際にフレットボードを傷から保護できます。一円玉の半分くらいの大きさで良いのでスチールウールを取りそれを丸めます。それを使って各フレットの汚れが落ちるまで磨いてみます。全てのフレットの掃除が終わったら、ブラシが先端についている掃除機などでスチールウールやフレットから出た汚れを丁寧に掃除します。特にネックピックアップのポールピースやネックポケットの部分に汚れが溜まりやすいのでそこもチェックします。スチールウール等の掃除の部分が終わり、テープを指板に使っていたならそれを全て剥がし、次は指板に軽くレモンオイルをタオル等を使って塗っていきます。そんなにオイルの分量は必要ないはずですので少しで始めてください。これで指板の見た目が良くなり、弾き心地も改善されていると思います。もしメイプル指板のギターでしたらレモンオイルはメイプルには適していませんので、このオイルの工程はスキップしてください。ローズ指板の様な色の濃い指板のみでオイルをお使いください。(コツ:ギターを磨く際のタオルとは一緒に使わないでください。レモンオイルとギターのポリッシュも離して保存しておいた方が良いです)
7 電気系統の修理とクリーニング:フレットボードのオイルが馴染んでいる間に問題のある部分等、電気系統をチェックしていきましょう。ジャックが緩んでいたらサイズの合った工具でナットを締めます。もしポットにガリが有るなら、ポットに空いている隙間から接点復活剤を少し吹きかけてポットを回します。これをする事によってポットの中に接点復活剤が行き渡りガリやゴミ等が取り除けるはずです。実際の電気系の修理は奥が深く、沢山の部分で問題が発生するところです。ここではその様な問題は無いと仮定して次に進みます。
8 弦を張る:電気系等をチェックして指板のクリーニングが終わっているのでここで新しい弦を張りましょう。沢山の弦の張り方や人それぞれの方法が有りますが、ここでは全てを見せるのでは無く自分が普段行う数種類のチューナーで弦の交換を見せます。弦が数回ポストに巻き付く様に確認します。数回以上は必要無く、それ以下ですとチューニングが安定しない、弦が抜け落ちる等の問題が発生する場合が有ります。弦を通す穴が横に付いてるチューナーの場合は、1周目の巻きと2周目の間に弦を挟む様に弦を巻き上げます。これをする事によって弦がしっかりとチューナーに巻き上がります。上から弦を差し込むスタイルのフェンダースタイルのチューナーでしたら、ブリッジ側から弦を通し最後まで引っ張り、ストリングポストから大体3つ目のポストの長さで弦を切ります。これで大体弦を3周巻けるはずです。
9 ナットとサドルに潤滑剤を使う:ナットとサドルに潤滑剤を使う事によってチューニングを安定させる事ができます。この用途専用の商品が数多く出ておりますが、HBの鉛筆の芯でも普通に代用できる事を知りました。殆どの家のどこかに鉛筆は有りますよね。芯の先端がしっかりと削ってあるのを確認して、ナットとサドルの溝を数回なぞります。これによってナットとサドルに有る見えないくぼみ等に弦が引っかからず自由に振動し、特にトレモロが付いているギターには有効です。この作業の時に弦を緩めるとナットとサドルの作業がやりやすくなります。
10 ピックアップの高さの調整:ギターのチューニングが終わったら次はピックアップの高さの調整に入ります。高さの正しい測定方法など細かい所は色々有りますが、単純に自分の耳でも決めれます。私はまず左手で全ての弦をネック上で押し込んだ状態を作り、右手の人差し指をネックピックアップとブリッジピックアップの部分に突き刺して弦とポールピースの隙間を指がある程度の目印となるので目視してみます。基本的なルールとしては、弦がピックアップに近いと音量も上がります。もしピッキングの強弱に反応する様なダイナミックな感じが欲しければピックアップを弦から離す感じでボディー側に落としてください。私個人としてはネック側は弦に近く、ブリッジ側は弦から離れている方が好みです。(注意:ピックアップはマグネットでできてますので、ドライバーなどでポールピースを傷つけるとピックアップを壊す原因にもなります)
11 イントネーション:イントネーションに関しての取り違えが多いですが、思っているよりは簡単です。12フレットのオクターブがオープン弦のチューニングに沿っているかどうかです。沢山のギターにブリッジ/サドルがそれぞれ違うタイプが付いています。それらのいくつかは各弦を独立してイントネーションを調整できる物も有りますし、サドルを数本の弦で共有する物も有り(昔のテレキャスター等)、それらは微調整ができません。まずはストロボチューナーを使います(スマホのアプリでもPersonのチューナーが有りますが普通のチューナーでも構いません)。ギターの信号をチューナーに的確に読ませる為にトーンを最後まで絞ります。巻き弦の一番低い方から始めて、12フレットを押さえます。ノート自体は同じですがチューニングがシャープかフラットの可能性が有ります。もしシャープならサドルのネジを数回締めて(サドルをブリッジの後ろ側に動かす感じです)再度オープンノートでチューニングして、さらに12フレットを押さえて再度チューニングを見ます。もしフラットでしたら、サドルを緩めて(サドルがブリッジから離れていく方向)再度チューニングし、12フレットを押した時のチューニングも調べます。もしこの調整が難しければ、弦を緩め持ち上げてサドルの調整等を再度行なってください。サドルに掛かっている弦のテンションが原因でサドルのネジが硬かったり、サドル自体が動かない場合があり、ネジの山を潰してしまうなどの原因にもなりかねません。(注意:ここで各弦のサドルの高さを再度確認するのも良い時で、イントネーションの調整時ににサドルの高さが変わる時があります)
12 ギターを試しましょう:ここで再度ギターを試します。弾き心地や音はどうですか?イントネーションの調整の時に下げたトーンノブも全開に上げましょう。弾き心地が変わってますかね?もし上記の調整を行なっているなら弾き心地と音が変わっているはずです。もしまだどこか調子が悪い所が有るなら再度上記の過程をチェックしてみましょう。どんな少しの調整でもトラスロッドが動く場合も有り、ストレートエッジや隙間ゲージ等の工具無しで調整している場合は正確な判断が難しい時も有ります。目視した際の感覚の違いも出てきますので、再度の確認作業も良いと思います。
各楽器には個別の特性や問題があります。ですが少し時間と手間を掛けてあげるだけでも良い音や弾き心地に変わる事ができます。少なくとも今回これで調整に対してさらに深い理解が得られたと思います。良い結果が得られないかもしれませんが、それはそれで良いと思います。何をするにも我慢と練習が必要ですので。もしこれで駄目でも沢山のプロの方々があなたの楽器の面倒を見てくれるはずです。特にもし金銭的に余裕が有るなら今のご時世彼らにはサポートが必要だと思うので。
EQDの日本の代理店ヤマハのこのページにはギターの調整以外にも他の楽器のメンテナンスの簡単な手ほどきを見せていますので是非ご覧ください。
Patrick Bensonはカリフォルニア州ロスアンゼルスのギターテックも行うミュージシャン。ギターリペアショップで働くかたわらNine Inch NailsとBeckのツアーにもテックとして同行。バンドCharadeでギターを弾き、ソロ(solo)のプロジェクトやポッドキャスト(Podcast)も行っております。興味のある方は彼のインスタグラム(Instagram)とツイッター(Twitter)をチェック。
EQDが好きな外国人の友達の多くは、みんな口を揃えて「Black Ashがファイバリットだ!」と言います。なんだったら「オマエもそう思うだろ!?」というような目で訴えてきます。しかし、ここ日本においてBlack Ashというモデルはさほど知られていません。いや、EQDの伝説のラインナップとして密かに知られている、と言い換えることもできます。