Aaron’s Bass Hole – 整列!ペダルの接続順101
takahiro tozawa
ペダルのデモビデオ等のコメント欄をずーっと見てると、色んな意見で混乱する事も有りますが、必然的に「このペダルは俺のボードのどこに接続すれば良いかな?」なんてなりますよね?
簡単に言っちゃいますね?どこでも良いんです。音が悪いと思ったら別の所に。ホントに、どこにでも置いてください。それで音が良ければシンプルにそのままそこに接続すれば良いです。それで良ければ、これでこのブログを見るのを止めて良いですが….。
僕はエフェクターの事はアートの道具だと思っています。あるペダルはペイントブラシみたいに大きく描き、あるペダルはスポンジの様にキャンバスの上を軽いタッチでたまに使うくらいで。そしてあるペダル(シンセペダル達、君ですよ)はまさにキャンバスその物って感じで。他の物は下書き、アウトラインを行なう地味ながらも最終的には重要な役目となる鉛筆。でも実際はペイントの事よりは絵が重要なんですよね。
限られたボードのスペースで沢山のペダルの設定で悩む方も多いですよね。ディレイは歪み系の前か後ろかとか、歪み系のトランジスターの種類に拘りすぎちゃったりとか。でも一番重要な忘れてはいけない事。音楽を作る事です。
ですので、ペインターが色の相性を理解しておくにこした事が無いのと同じで、後から説明しますが、ペダルを通過する音楽的な信号の流れがどう作用するかも同じですよね。僕が所有しているそんなに大げさでもないベースのセットアップですが、僕がどういう手順でペダルの順番を決めるか、ボードの組み込みをパズルとして見ないで、君の音楽の自然な延長になる様な物として出来る様に考えながら行なってみますね。
基本
“音楽の自然な延長になる様な物”なんて言いましたが、ペダルボードを組む際は、二つの基本的なオーディオの概念を考えなければいけません。ゲインステージとS/N比(ノイズフロアとも言いますね)です。この二つは永遠に切っても切れない関係で誰も驚きませんよね。
こちはヤマハが出版したYamaha Sound Reinforcement Handbook(英文ですが、音響全般の理論を説明したとても為になる本です)ではSignal-to-Noise Ratioを“通常のレベルとノイズフロアの違い”と定義しています。
私たちの使用下では、“通常のレベル”ってのはペダルを通過しているギターの信号で、“ノイズフロアー”は信号がペダルやアンプの回路を通過した時に発生する電気的なノイズの事になりますね。もしハイゲインアンプを弾いた事のある人なら聞いた事が有ると思いますが、弦をミュートした時に聞こえるあの“シーーーー”っていう音。それがノイズフロアーです。それと、シングルコイル系のギターを弾く人なら分かるであろうあのノイズ。あれは電源の元から出ている60Hkサイクルのハムが楽器の信号に乗った時に起る物です。
製造者達はこの現象との戦いを、ハムバッカーやワイヤーを逆の方向に巻かれたシングルコイルを搭載したり、ギターの信号の電気的なノイズをカットしながらも、ギターの音楽的な部分の信号は殆どそのまま出せる様に、ノイズゲートのデザインをしたりと過去数十年も行なっております。でも、ゲインの設定を正しく行なえば、ノイズフロアを最小限に押さえる事が可能で、本来求めている最高の音色を最大限に活用出来るでしょう。
助けを借りましょう
このアメリカのインターネット量販店Sweetwaterの記事”Gain Staging Like a Pro”の中でゲインステージングの定義をこの様にしています。“
最終的なサウンドシステム全体のノイズと歪みを押さえる為に信号が増幅される各ゲインステージのゲインの調整をする“
この記事はライブサウンドやプロオーディオの視点で書かれていますが、ギターリストもこの定義を自身の機材に当てはめる事が出来、最小限のSN比で、箱のサイズ等に合わせた音作りが出来ます。自分の理想のギター、ベース等の信号や音を機材を通して出来る限りピュアに聞き手に出すってのはPAシステムと同じ原理ですからね。
でも今貴方が何を考えてるか分かってますよ。「でも私の好きなギターの音は歪んでるんですが?」って。僕の好きな音もそうです。
この場合、“歪み”は歪んだギターサウンドを指すのではなく、信号の進む過程で故意で無くクリッピングしてしまった物です。ディストーションはアンプや“ゲインステージ”に負荷を掛けた時に発生します。再度確認しますが、ギターアンプの事を指してるんじゃ無いですよ。アンプは複数のゲインステージで成り立ってますからね。シングルのゲインステージで信号を増幅(ボリュームが上がるってウチらは解釈してますよね)する物。単体のプリアンプはシングルのゲインステージですね。イコライザーもそう。コンプレッサーに付いているゲインを戻す物もそうですし、パワーアンプ達もその類に入ります。
他のアンプ類ですとサミングアンプが有ります。二つ以上の信号を1つにまとめる物ですね。ミキシングコンソールや、複数のトラック/信号を最後のファイルにまとめる(通常はステレオ)DAWの”mix”がそうですね。
ギターリストなんかが使うモジュレーションや時空系エフェクトのWet/Dryなんかもサミングアンプと同じ原理です。この部分のペダルの回路で原音とエフェクト音を混ぜ合わせます。このサミングアンプの部分で信号がクリッピングすると大変な事になります。有りがちな例だと、思いっきりペダルで歪ませたギター信号をデジタルディレイに入れたりするのがそれ。あんまり有り難いサウンドでは無いですよね。僕の経験からだと、歪みは歪み系のペダルだけに任せます。ただ、例外としてこの大きい二つがあるかな。テープエコーのエコープレックスに付いているプリアンプとビンテージのニーヴコンソールのプリアンプ。
ペダルの接続順
巷の一般的な考えでは、理想的な接続順はワウ/フィルター系、コンプ、歪み系、モジュレーション系、ピッチシフター系、そして空間系ですが何でだろう?
ワウとフィルター系
ワウとフィルターは殆どの人が大事にしたい、かなり広いフリークエンシーレスポンスとダイナミックレンジを持っており、それが故に楽器の信号経路の一番最初に置かれている事が見る事が通常多くなります。ただし極端な設定にすると(特にフィルター系とオートワウに該当しますが)かなり耳にくる嫌な高音を出す事も多く、その際は耳を痛めたり使用中のスピーカーを痛めたりする事も少なく有りません。
コンプレッサーやオーバードライブ系のペダルを後に置く事によって、その耳やスピーカーを痛める嫌なフリークエンシーを持っている機材を効果的に押さえる事が可能です。あと、歪み系のペダルをワウの前に持って来て使って、高音が“キーキー”鳴ったり、凄い量のノイズを歪み系のペダルから拾って来たりと実証出来る方も居ますよね。必ずしも悪い事では無いですが、何故こういう事が起るのか?ってのを理解しておく事が重要で、ペダルボードを組む際に自分の音楽に合ったペダルの選択が出来る事でしょう。
コンプレッション
コンプレッションは通常フィルター系の間と歪み系の間に入ります。以前のこちらのブログ、Compression 101でもコンプの説明をしまたが、もし必要な方はこちらを:
コンプレッションとはダイナミックレンジ・レンジ・リダクションです。これがどんな意味かと云うと、コンプに信号が入った際、一番音量が大きい所の音量を自動的に下げて、音量がそれより低い部分はそのままの音量で残るって仕組みです。それによって音量の大小の差を縮めるって事ですね。それにより、コンプの掛けられた音がアンプを介して出された時に、音量の小さいパーツもしっかり聞こえ、音量の大きい部分は押さえられ、曲中の他の部分の邪魔にならないようになります。
殆どのコンプレッサーはギターの信号や、ペダルの数を増やした際のノイズフロア(特に歪み系やファズ)の識別が出来ません。だから接続順の最初の段階の方に入れた方が良いのです。そして、コンプを使って粒の揃った音をその後のペダルに送る事によって、アナログオクターブやピッチシフター系のペダルのトラッキングがより正確になるという利点も生まれます。
コンプのアタック、リリースタイムとレシオの設定は好みによる所が大きいですが、出力の設定は入力の際のゲインと同じにする事をお勧めします。
ユニティーゲインはゲインステージが(この場合はコンプレッサーペダル)が増幅も減退もされない状態で生まれます。要するに信号がただ通っているだけです。ユニティーゲインを得る為にはコンプの音を好みの物に設定して、Output(Levelと表示されている場合も有りますね) をペダルのオン/オフ時の音量差が無くなる様に設定します。これでコンプがオンの場合でもコンプの効果を得ながらも音量的にはオフの場合と同じ様に聞こえると思います。これをバンド内で試してみてください。自分の音がバンド内で上手く馴染んでいる事が分かると思います。僕はコンプをいつもオンで使用していますが、コンプをブースター代わりで使用したい方は、ユニティーゲインを無視して好きなだけゲインを上げて信号をブーストしましょう。以上の知識を少しでも持っているだけでペダルボードの制作時に役立つはずです。
オーバードライブ、ディストーション、ファズ
殆どの人にとってこのペダル達が音の基礎に鳴っていると思います。MudhoneyやDinosaur JrやSmashing Pumpkinsと聞いたら”Big Muff”の事を考えちゃうし、ギター屋さんに行って「TS-808!」って叫んでみるってのは?「Stevie Ray Vaughan!」って言う人何人位居ますかね?面白いでしょ?でもダメダメ。試しちゃダメですよ。
沢山の人がこの種のペダルは常にオンにして使っているので、最終的にノイズフロアが後から来るペダルで目立たない様な感じになっています。
もし幾つかの歪み系のペダルを組み合わせて使うなら、通常の常識としては、低いゲインの物を高いゲインの物の前に置くってのが定説です。しかしここは色々試したい所。この二つのペダルの順番を単純に変えるだけでも、凄い驚きが有るのを発見出来ると思います。
自分が好きなセッティングで気づいたのが、White Lightに入る前の信号をMonarchで突き上げてみると、White Lightに良いコンプ感が出て自分のベースがバンドのオケに良い感じで馴染み、今まで聞いた事の無い様な濃厚なハーモニクスがこのゲインスタックによって生まれました。気持ちよかったー。これを“正しい方法”で試しましたが、同じ結果を得られませんでした。
モジュレーションとピッチシフター系エフェクター
ここでルールを逸脱するっていう楽しみが出て来ます。おなじみの文句ですが、通常の常識だとこの手のペダルは歪み系と空間系の間に入れるってのが定説ですが、これの理由になっている1つがこれらのペダルの回路(特にDSP搭載の物)はLFOのモジュレーションから発生するノイズや、アナログ/デジタルに変換された際に生まれるノイズに影響され易いので、出来るだけノイズの増幅や信号に歪みの与えるのを避けたいんです。でもこれじゃ足りない?モジュレーション系のペダルを歪み系のペダルの前に置いたら、普通の人が聞いたら音が悪く聞こえる時が普通は有ると思うんだけど。貴方は普通の聞き手じゃ無いですよね?思った通り!
注意としてペダルによっては(時にアナログオクターブペダルやシンセ系エフェクト)ペダルの接続順の最初の方に持って行った方がトラッキングが良くなります。例外が有るという事は規則が有る事。サウンドを追求して人はどうしたらよいって?簡単です。自分の耳を使う事です。これらペダルが接続順のどこに入ろうが、自分の頭の中にある音にどれだけ近づけるかとノイズフロアとの兼ね合いを見て(他に接続しているペダルを含めて)楽器を弾きながら色々設定を変えてみてください。もし音が前に出て来てなかったら、Wetシグナルを少なくするとか他のペダルのゲインを落とす等試してください。*EQを調整するのも1つの手です。それでも君の音楽にそれが必要なら、Wetシグナルをガッツリ上げてロックしてください。
[*ヒント:最高のS/N比をキープするには、EQの使用時にまず帯域を切る所から始めて見てください。帯域をブーストするとそこでゲインを増幅させる事になりそこからノイズも増幅します。もし音がこもっているなら高域をブーストしてノイズを上げるより、低域を削ってみてください。これによって良いヘッドルームをキープする事も可能です]
ディレイとリバーブ
このいわゆる“アンビエント系”エフェクターは、自然界の、いや、空間の音響のアンビエント(環境)を作る所なので、通常の接続順では一番最後に来るものです。もし“自然”なアンビエントを作りたければこの方法は最高です。その上、殆どの人はこの系統のペダル達をファズなんかの手前に置くと、残響音がぐちゃぐちゃになってしまうので、通常の音楽的な設定ではこれを一番最後に使います。でも歪んだディレイやリバーブってのは面白い感触を生み出す物で、綺麗なノートが後に歪んだアンビエントの残響音の雲で包まれる感じがでますね。Jimmy Pageのあの、マーシャルのスタックの前にエコープレックスをかますのがそうですね。
僕と同じ様に(か、従わないでもよし)
オッケー。これが今僕が試しているものです。Darkglass Super Symmetry compressor > Tronographic Rusty Box bass preamp (line out to Radial passive DI) > Data Corrupter Modulated Monophonic Harmonizing PLL > Boss LS-2 Line Selector > Mantic Vitriol distortion (in LS-2 Loop A) > Space Spiral Modulated Delay > TC Electronic Polytune 2 tuner.
ベースプリアンプについてはまだ触れてないので、Rusty Boxから行きましょう。もし君がベースプレイヤーならプリアンプは信号経路の頭の方に持って行きましょう。僕の場合はコンプの後に来てます。プリアンプはDI等の複数の出力が 付いてる物が多く、PA等に直接信号を送れ音作りの可能性が広いです。このRusty Boxは70年代のソリッドステートのTraynorのアンプの音をエミュレートした物です。特徴のある噛み付き感の有る歪みが得られ、Shellacやthe Jesus Lizardの様な“ノイズロック”の様な音が出ます。自分の設定はクリーン目にしておいて、強く弾いた時に噛み付き感が出る様にしています。ただクリーンでも無く、歪んでもいない感じです。1/4”からの出力はパッシブのRadial DIからPAに入り、クリーンサウンド。メインの出力は次に接続されているペダルに入ります。もしDIに付いてもっと知りたければ、このブログも見てみてくださいね。
信号の始まりはDarkglass Super Symmetry compressorから。主に音色の利点の為に使ってて、ピック弾きと指弾きの音量の差を埋めるのにも重宝してます。InputとCompression設定は指引きで強く弾いた時だけ掛かる様に。ピック使用時は常にうっすら掛かっている感じです。でもゲインリダクションのLEDが点かない様に心がけて弾く様にしてます。“ボンッ”って感じにならない様にAttackとReleaseは優しく掛けて、Blendは11時から1時くらいの間でその日の気分によってセットしてます。Outputはユニティーゲインになる様に耳で調整します。
コンプの後にRusty Box。僕はパッシブのペースを弾くのでこのペダルを“オンボードのアクティブプリアンプ”と見ています。トグルスイッチを”Lo-gain”側に、クリッピングの寸前でInput Gainを10時の方向でセット。自分の耳には低域が少し軽く聞こえるのでBassを結構ブーストし(3時くらいの)少しだけMidとTrebleを足して音のキャラクターを立ててます。このペダルはゲインの出力がとても高いのでボリュームは9時くらいの方向で、ユニティーゲインに近い所にセットしています。
ここからデータコラプターにプラグインするんですが、Rusty Boxの後にしました。なぜならトラッキングが良いってのを発見したからです。そして他のペダルは後に来ます。データコラプターをベースに色付けするだけのエフェクターというより、ベースでコントロール出来るシンセの様に扱いたかったから。基本的に楽器の一部として扱う意味で。
データコラプターの信号がBOSSのLS−2に入り、Loop Aに入っているMantic Vitriol distortionのリモートコントロールの様になっています。そしてLS-2の“A+B Mix”モードを使ってクリーンと歪みの音をブレンド出来る様にしています。Vitriolは十分な低音が有り、クリーンサウンドをブレンドする必要が無いのですが、歪んだ音の中からのぞく各ノートのクリアーな感じが気に入ってます。
Space Spiralが次に来ます。ショートアナログディレイをベースに載せるのが好きなので、モジュレーションの掛かった短いスラップバックの設定にしています。歪み系の前に載せるとリピートが長くなり、それは好きでは無いので歪み系の後になります。あと、自分の事をベースプレイヤー捉えずリズムセクションの一部と捉えているので、ディレイを短く保つ事で限りなくクリーンなベーストーンになる様に心がけてます。それによってグルーヴを保ちながらもアンビエント感を与える事ができるから。
最後に、TC ElectronicのPolytune 2チューナー。ボード上の信号に何か問題が有った時に、システム全体のキルスイッチの様に使えるのでチューナーを最後に置く事にしています。ライブで演奏時のトラブルシューティングの時に、パッチケーブルを抜き差しする際に自分のスピーカーやPAスピーカーをボンボン鳴らさない為にも良いので。
1つだけ欠点を上げるなら、チューニングをする際にRusty Boxをバイパスしなければいけない事です。それを忘れるとDIからの信号は常に出てますので、お客さんは僕がフルボリュームでチューニングしている音を聞くはめになります。誰にでも間違いはありますからね...。
Aaron Rogers (アーロン・ロジャース)アースクエイカーのPRでコピーライター。フリーランスのサウンドエンジニアとしても活躍し、バンドUltrasphinxでベースを担当。